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栗山英樹の「私のめざめ」。 同じ空間を共にする―― 「人と会う」尊さにめざめました

人それぞれにある「めざめ」の瞬間。その無限大の可能性を応援する「asupresso」がお送りするコラムシリーズ「私のめざめ」では、毎回スペシャルなゲストに「めざめ」にまつわる思い出や考えを寄せてもらいます。今回お話しを伺ったのは、野球指導者の栗山英樹さんです。

栗山英樹(野球指導者)
1961年東京都生まれ。1984年にドラフト外からプロ野球・ヤクルトスワローズに入団し、外野手として活躍。引退後は野球解説者やスポーツジャーナリストを経て、2011年11月より北海道日本ハムファイターズの監督に就任し、監督一年目でリーグ優勝、2016年には二度目のリーグ優勝と日本一を果たす。2021年には野球日本代表「侍ジャパン」監督に就任し、2023年WBC優勝に導いた。2023年12月より北海道日本ハムファイターズのチーフ・ベースボール・オフィサー(CBO)に就任している。

思い立ったら行動する

 2011年の11月に北海道日本ハムファイターズの監督になってから、リーダー論や組織論などのビジネス書をよく読みました。また、「思い立ったら行動に移す」が私の信条。時間が許す限り外へ出て、学びや気づきを得る機会も作りました。自分のいたらなさを自覚していましたから、「勉強しなきゃだめだ」と、日々己を奮い立たせていたのです。

当時を振り返って思い出すのは、19年に惜しまれながらこの世を去った、名馬・ディープインパクトとの出会いです。16年から毎年、彼のいる社台スタリオンステーション(北海道勇払郡)へ通いました。多くのファンを熱狂させ、GⅠレース7勝という歴史的な記録を持つ名馬に“勝ち方”を教えてもらいたかったのです。

もちろん、馬と話ができるはずはありません。それでも彼に触れると幸せな気持ちになったし、関係者の方から「まじめで品がよかった」「走るのが大好きな馬だった」などと聞いて、「ああ、やっぱりディープもそうだったのか。野球と同じで“好き”という情熱を持っていたからこそ勝てたんだな」と、腑に落ちる思いがしたものです。

ほかにも、冷静な彼から教わったことはたくさんありました。あの時、「会いたい」という気持ちに素直になって、本当によかったと思っています。

五木寛之先生に会いたい!

こんなふうに、私は比較的すぐにアクションを起こすほうです。しかし、会いたい方と必ずお会いできるとは限りません。いつか会いに行こうと考えているうちに、残念ながら機会を逸してしまうこともある。だから、普段から「この方と会いたい」と思ったら、周囲に思いを発信するようにしています。「何とか会えませんか?」と。

その思いが通じて2023年のWBCが終わった後に、やっとお目にかかれたのが、作家の五木寛之先生でした。先生の本は、その一冊一冊に独自の人生観が詰まっていて素晴らしい。もう何冊も読んでいますが、中でも『親鸞』に惹かれました。

本書の中で先生は、親鸞聖人の教えである「他力本願」を深く描かれていました。他力本願は「他人任せにする」という意味で使われがちですが、それは誤解です。ざっくりとした表現で申し訳ないですが、仏教用語で「他力」とは「阿弥陀仏の力」であり、他力本願とは「自らの力ではなく、阿弥陀仏の力によって救われる」という意味だそうです。

いくら頭の中でわかっていても、私は野球のことになるとつい熱くなってしまうんですね。選手を鼓舞したくて「自力で頑張れ」などと口走ってしまう。そんな体験から、先生はどんな思いで「他力」という慈悲の心を描こうとされたのか――一度、お聞きしたかったのです。

会ってお尋ねすると、不思議とすんなり理解できました。先生が『親鸞』を通じて私たちに伝えられたことは、とてもシンプルではないか。頑張る人・頑張れない人、そこに優劣はなく「人は生きているだけで価値がある」。そんなメッセージを描かれたのではないだろうか、そう思いました。また同時に、私は野球や育成の本質をとらえ切れておらず、選手たちに「もっと頑張れ」と求めすぎていたのではないかと、自らを省みるようにもなりました。

先生が人に向けるまなざしは、いつも優しい。その先生と向かい合い、私は「人と会う」ことの尊さに、改めてめざめたのです。

会うからこそ学びが生まれる

コロナ禍で世の中にオンライン会議ツールが定着し、私たちの「会い方」は多様化しました。私はコロナが終息してから、なるべく直接会いに行くよう心がけてきましたが、「なぜ、わざわざ会いに行くのか?」と急に問われたら、返答に窮してしまったでしょう。でも先生は、人と会う尊さまで、さらりと教えてくださったのです。

先生はこうおっしゃいました。
「オンラインも大切だけど、こうやって会っていると、しゃべらなくても相手の思いや感じていることが自然と理解できてくる。人間とは、そういうものなんだよ」

人と人が、同じ場所にいるということ。それがとても重要なのだと、はっとしました。場という空間を共有することで、多くを語らなくても分かり合える――これが心と心とが通い合うということなのでしょう。会うって素敵だなぁ、と思いました。

もちろん画面を通じて話せるツールは便利です。時間がない時や、遠く離れた者同士がつながる手段として、とても有効だと思います。でもやっぱり、直接会うことから得るものは大きい。会ったからこそ話が盛り上がり、思いがけない学びにつながることだってあるし、そして何より、今も私にさまざまなことを教えてくださる方々がたくさんいてくださるのですから。

私はこれからもできる限り、会いたい人に会いに行きます。

栗山さんと井阪社長による、リーダー同士の熱い対談も近日公開予定です。ぜひご期待下さい。

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