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栗山英樹氏 × 井阪隆一 対談 ―求められる『リーダー像』とは―

変化の激しい時代において、求められるリーダー像とは? またこれからリーダーを目指そうとしている人にとって必要な心構えは? 対談のテーマにふさわしく、北海道日本ハムファイターズの監督としてチームを日本一に、また2023年のワールド・ベースボール・クラシック(以下、WBC)で野球日本代表 侍ジャパン(以下、侍ジャパン)を世界一に導いた、北海道日本ハムファイターズ チーフ・ベースボール・オフィサーの栗山英樹さんをお迎えし、熱いお話をうかがいました。

リーダーになった時の心境は

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井阪:今回のテーマは「リーダー論」ということで、改めて私もいろいろと学ばせていただきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

栗山:こちらこそ、よろしくお願いいたします。実は、普段からよくセブン‐イレブンさんを利用しておりまして、井阪社長にお会いするのを楽しみにまいりました。ちなみに最近のお気に入りは、お店で揚げたカレーパンです。

井阪:それは、ありがとうございます。お好みの商品までおっしゃっていただけて、大変うれしいです。

栗山:今の社会、私を含め、多くの人たちがコンビニエンスストアに生活を助けてもらっていると感じます。「人々の生活を守る」って、大変重要なお仕事だと思いますが、その企業の社長になられた時のご心境はいかがでしたか?

井阪:セブン‐イレブン・ジャパンの社長に就いたのは2009年で、当時はビジネス環境が厳しい時期でした。しかし、新卒で入った会社であり、この「セブン‐イレブン」というブランドを愛してきたので「何とか盛り返してやろう」という気持ちでした。

栗山:ファイティングポーズで、行くぞー!みたいな感じだったんですね。想像ですが、周囲からさまざまな声が聞こえてきても、社長の心の中にセブン‐イレブンというコンビニエンスストアの「大義」のようなものがあったのではないでしょうか。だから、厳しい時期も頑張り切れたのでは。

井阪:そうですね。私を含め、全社員がセブン‐イレブンの仕事は人々の暮らしを支えることだという自負を持っています。当時、統計データを見ると、高齢化や働く女性の増加など社会環境の変化が顕著になっていて、生活圏内の商店が減っていたり、お買い物に費やす時間が取れなかったりとお客様のライフスタイルにも大きな変化が起きていました。ですからセブン‐イレブンもそうした変化に合わせて変わっていけば、よりいっそう世の中の役に立つお店になれると確信したのです。

栗山:「大義」に突き動かされたのですね。

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セブン‐イレブン・ジャパンの社長になった2009年当時(右から2番目)


井阪:栗山さんはいかがだったのですか。監督になられた時はどのようなご心境で?

栗山:2012年に北海道日本ハムファイターズの監督になったのですが、井阪社長と逆で、チームの調子は良かったんです。でも、たまたま私と入れ替わりでダルビッシュ有選手がアメリカのメジャーリーグに移ったタイミングで、これからチームが勝てなくなるんじゃないかと言われていました。私はそれまで指導者になったことがなかったものですから、監督になるのは正直言って怖くて仕方がなかったですね。

井阪:過去にコーチの経験もおありではなかった?

栗山:ええ、だから監督のオファーを一度はお断りしたんです。それでもまたお話をいただいた時に「勝ってくれって言っているんじゃない、選手とチームを愛してください」とおっしゃってくださったので、それなら、とお引き受けしたのです。あの時は、一生懸命にやるしかない!と心に決めていました。

井阪:そうでしたか。私も社長になってすぐ、「セブン‐イレブン」というブランド のあり方を劇的に変えようとして、その想いを周囲にどう伝えようかと毎日考えて過ごしていました。

栗山:わかります。どの組織にも当てはまることですが、これまでと違うことをやろうとすると、反対意見も出ますからね。

井阪:どうすればこれからやろうとすることを周りに理解してもらえるか、相当苦心した記憶があります。試しにやってみようと、商品の中身や商品構成、価格を変えるなど、さまざまなことをしました。するとだんだん結果が出始めて、みんなのベクトルが合っていった――そんな経緯がありました。

栗山:少しずつ「勝ち方」を覚えていったのですね。野球にも通じるものがあります。

井阪:監督になられた当初、印象深く記憶に残っておられることはありますか?

栗山:監督1年目、開幕投手に斎藤佑樹選手(当時)を起用したことです。プロ2年目の彼に、なぜ大役を任せるのか、本人にも周囲にも納得してもらわなきゃいけなかったし、絶対に勝てる保証もなかったわけですから。でも結局、斎藤選手は完投し、チームは勝ってくれました。あの一勝は、私の監督人生でものすごく大きな一勝です。

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斎藤佑樹選手(当時)と栗山監督(当時)

井阪:なぜ、斎藤投手を起用されたのですか?

栗山:ダルビッシュ選手というエースが去って、軸となる人材が決まっていなかったから勝負できたのかもしれません。さきほど社長もおっしゃったように、無難に同じやり方を続けていては勝てません。リーダーは、仕掛けたり、リスクを背負ったりしなければならない時があるんだと思います。斎藤選手には「2012年、開幕エースは斎藤で行く」とだけ書いた手紙を渡したんですが、私の覚悟や想いを感じ取ってくれたのか号泣していました。チームには「とにかく打って、ピッチャーを育ててくれ」と話しました。そうしたらチームをまとめていた主力選手が「わかりました、行くぞー!」って、みんなをやる気にさせてくれたのです。

井阪:チームの雰囲気を変えることは、相当なパワーが必要だったでしょう。

栗山:そうですね。でも、やるからにはみんなに納得してやってほしい。だから説明はていねいに、しっかりするようにしていました。

一人ひとりの個性を活かすには

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井阪:WBCの時も、選手一人ひとりに手紙を書かれたとか。

栗山:はい。会社の組織でも同じだと思うんですが、一人ひとりが「会社の一員」ではなくて「この会社は自分の会社だ」という気持ちになれば、結果はついてくるでしょう。WBCも一人ひとりが「ジャパンは俺のチームなんだ」と思ってくれたら、アメリカに勝てるかもしれない。その気持ちを伝えたかったんです。

井阪:きっと、想いが届いたから勝てたんですね。

栗山:いや、そんな。やはり優勝できたのは選手の力ですよ。今度は私からお聞きしたいんですが、社長は社員の個性をどう伸ばそうとされていますか? グループ内にはたくさんの業態がありますし、それを一つひとつ活かすために、どう考えられておられるのかなと。

井阪:自分たちの強みは何かを明確にすること、この点を大事にしています。弱いところを補うという考え方もあると思いますが、強い領域で勝負したほうが最大公約数の“幸せ”を実現する近道ではないかと考えています。

栗山:強みを活かす、ですか。

井阪:ええ。私どもの強みは第一に「食」ですが、各事業会社もそれぞれの強みをもっています。CVS事業をはじめ、スーパーストア事業や金融関連事業など各事業領域では成長するスピードやエリアが異なるので、それぞれのペースに合わせ、それぞれの強みを発揮し、適した形で成長できるようにしたいとも考えています。2016年にセブン&アイ・ホールディングスの社長の職に就かせていただいてから、こうした考え方を形にしていくことが一番難しかったと思います。野球では選手の個性を活かす方法をどのように考えられているのでしょうか?

栗山:そうですね、野球は監督やその状況によって考え方もさまざまなんですね。ただWBCの侍ジャパンのような一流選手が集まっている場合は、チームをまとめようとしないほうがむしろ力を発揮できると思います。

井阪:それはなぜでしょうか?

栗山:まず、まとめるのが無理なんです。一人ひとりが一国一城の主として、パフォーマンスできる力を持っているわけですから。無理にまとめようとせず、一つの目標だけを見て、みんなで向かっていこうぜ! というようなスタイルが合っていたと思いますね。

井阪:なるほど。

栗山:実際に、超一流の選手たちは個々で何が大切なのかを考え、一丸となって勝ってくれました。私からは一つだけ、「なぜ自分は試合に出られないのか?」のような、稚心(ちしん)、つまり子どもっぽい心は消してくれと伝えましたね。

井阪:稚心を消す――それが栗山さんから与えたテーマだったわけですね。ちょっとお聞きしたいのですが、先ほど侍ジャパンの選手を「一流」と評されましたが、野球でもビジネスでも一流になるには何が必要だと思いますか?

栗山:自分の利になることだけではなく、チームや組織全体の成長を考えられるようになった時に人は一流になっているのかもしれません。でも、そこまで行くには実績と言いますか、自信も必要です。日ごろから自分に小さな目標を課して、少しずつでもクリアしていく習慣をつけるといいと思います。

井阪:おっしゃるとおりです。加えるなら、私はやっていることを常に自分でレビューして成果にいたってなければ変える、軌道修正する、という勇気も必要ではないかと思います。それができると実績がついてきますし、ある程度実績が出て、周囲も認めてくれるようになって初めて一流と言えるのでしょうね。

困難に立ち向かう時の心構え

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栗山:チームや組織がうまくいっていない時こそ、リーダーの真価が問われます。困難にぶつかった時の心構えについて、どうお考えでしょうか?

井阪:ビジョンを示すことが重要だと思います。こんな会社になっていこう、こういったお店にしていこうなど。それに向かって進むやり方はいろいろあると思いますが、ビジョンが共有できていれば逆境になっても強い。そのうえで、たくさんの人が働いていますので、ビジョンを常に発信しなければとも心がけています。

栗山:やるべきことがはっきりしているとブレませんからね。一方、野球は一瞬一瞬が勝負なのであれこれ考えてしまいます。頭の中では「よし、明日はこうしよう」と、考えを整理できていても、心の中がざわついて眠れなかったりすることもあります。社長もそんなふうに迷われたりする時はありますか?

井阪:ええ。組織が大きいので、何か決めようとする際にはさまざまな声が耳に入ってきます。その声を聞くプロセスが大切だと思っていまして、みんなが腹落ちしたことを決定事項にするために、時には徹底的に意見を戦わせます。その過程で最初はこう考えていたけれど、ひょっとして私の軸にブレがあるのかもしれない、ほかの方法の方がいいかもしれないなど、自問しますよ。

栗山:そうですか。

井阪:周囲の話を聞いて修正できるようなフレキシビリティを持ち合わせたいです。トップは「聞く力」っていうのでしょうか、その姿勢が大切だと思っています。

栗山:おっしゃるとおりですね。野球の場合は、勝つか負けるかの瀬戸際で判断をしなければならないので悩ましい。例えば、監督2年目の2014年、大谷翔平選手がデイゲームで投げ勝って、翌日のナイトゲームに勝てばリーグ優勝だっていう勝負時がありました。チームには「投げた翌日は、その投手を使わない」というルールがあったんですが、大谷選手は「明日も出る」とばかりに、試合後、駐車場で素振りをブンブンしていまして。

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大谷翔平選手と栗山監督(当時)

井阪:大谷選手は試合に出る気満々だったんですね。

栗山:そのとおりなんです。大谷選手の気持ちは痛いほどわかりました。でも彼の身体に無理をさせるわけにはいかないと、それこそ一晩中考えました。

井阪:結局、どうなさったんですか?

栗山:大谷選手は使いませんでした。試合は負けてしまいましたけれど、もう一度、同じことがあったとしても同じ判断をします。上に立つ者が決めることに正解はありませんが、やはり全体を見て、一番大事なことを見極めて決断するのがリーダーの仕事なんだと思います。

次代のリーダーとは

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井阪:いろいろお話をさせていただきましたが、最後に、これからリーダーになる人へ何かメッセージやアドバイスをいただけますか。

栗山:先ほど話しましたように、リーダーは組織全体を見て考える能力が重要ですが、精神的な配慮も大事だと思っています。私は選手に対して「素直でいる」「嘘をつかない」と決めていますが、試合中、特に気をつけているのが「立っている姿」です。選手たちはよく監督を見ていますから、試合中、だいたい守っている時は座っていて、攻撃している時は「行くぞ」って感じで立つんです。ファイターズが負けこんでいた時は、まっすぐ立って微動だにしませんでした。「この試合大丈夫だ、さあこい」というイメージで、まっすぐ立ち続けました。

井阪:その気概は選手にも伝わったでしょうね。私はあまり感情を出さない方だと思いますが、落ち込んでいるところを見せるのは良くない。だから、トップとしては常に明るく前向きにいたいと思っています。

栗山:
「明るく」も、とても大事ですね。

井阪:今回栗山さんとお話しさせていただいて、リーダーにとって大切なことを二つ得心いたしました。一つはゴールビジョンをしっかり示すこと、次に、そこにいたるプロセスを、どうやってみんなにわかりやすくコミュニケーションを取っていくかということ。

栗山:そう言っていただけるとうれしいです。私も社長から大いに学ばせていただきました。

井阪:いえいえ、こちらこそ。

栗山:最後に野球目線で恐縮ですが、どんな監督が今後求められるかという私の考えを少しお話ししますと、「時代に合わせる」という感覚も大切だと思うんです。昔のようにみんなを引っ張っていくタイプのリーダーではなく、最近は「担がれる人」が上に立つケースも多い。その人の生き様や人柄に共感して「応援したくなるリーダー」とでもいうんでしょうか。だから、これからのリーダーは実力主義の“リーダー然”とした人でなくてもいいと思うんです。リーダーになったらみんなが助けてくれると考えてもいいし、その地位になったらなったで、本人は必ず勉強しますから。若い人たちには、上に立つことを不安に思わなくていいよって伝えたいですね。

井阪:確かに自分の生き様や背中を見せることは、リーダーとして大事なことですね。本当に勉強になりました。ありがとうございました。

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