
形は守り、中身は変える。ランドセルのあたらしいかたち
小学生の頃、多くの人がともに過ごしたランドセル。体が小さな頃は大きくて、身長が伸びてくるとちょっと物足りなくて。でも、6年間をともに歩んだ相棒でした。
いつの時代も、ランドセルは変わらず子どもたちのそばにあります。
しかし近年、そんなランドセルに変化が生まれています。
「水筒を入れられない」「重くて動きにくい」といった子どもたちの声をきっかけに、ランドセルの“当たり前”が見直され始めているのです。
そうした声にいち早く応えたのが、株式会社タカアキ。日本の鞄づくりを確かな技術で支える会社です。タカアキから生み出されたのが、“見た目はランドセル、中身はリュック”のリュッセル®。そんなリュッセル®に注目し、パートナーとしての歩みを始めたのがイトーヨーカ堂です。
一社だけではたどり着けない場所を目指して、ともに歩む人々のストーリーを紹介する「あすを紡ぐたび」。第4回は、これからのランドセルに託された想いと挑戦を追います。
ランドセルは本当に重いままでいい?
「ランドセルの重さは、社会的な課題としてニュースでも取り上げられることがあります。でも、実際に子どもたちの声を直接聞く機会はあまりないんです。だからこそ、“本当のところ、どう感じているのだろう?”と、ずっと気になっていました」
そう話すのは、イトーヨーカ堂のスクール&ホビー部でランドセルを担当する武田さん。

イトーヨーカ堂 スクール&ホビー部 マーチャンダイザー 武田さん

武田さん
ちょうど昨年、小学校で特別授業の機会をいただくことができました。そこで直接子どもたちに聞いてみると、想像以上に重いという声が多くて。今の子どもたちは水筒やタブレットも持ち歩いているんですよね。私たちが子どもの頃とは比べものにならないほど、荷物が重くなっているんだと実感しました。
四角くて大きくて、革でしっかりつくられたランドセル。“この形が当たり前”だとされてきたけど、今後は変わっていくのかもしれない。そんな想いが武田さんの胸に芽生えたそうです。

武田さん
“ものづくり”で大切なのは、お客様の声を聞いてお応えしていくことです。子どもたちにとっての理想のランドセルってなんだろう? そう考えていた時に、ランドセルの展示会でリュッセル®に出会いました。
一目見た瞬間、なんてかわいいランドセルだろうって思いました(笑)。まずそのフォルムと質感、色使いに完全に心を奪われてしまったんですよね。

豊岡のショールームに並ぶ、色とりどりのランドセル。
「あのイトーヨーカ堂さんから連絡が来たと聞いて、最初は驚きましたよ」
と、朗らかに話すのはタカアキの宿南(しゅくなみ)さん。2010年にタカアキを立ち上げ、兵庫県の豊岡で鞄づくりに取り組んでいます。ランドセル事業を始めたのはコロナ禍のこと。そのきっかけは、武田さんと同じような“子どもたちへの眼差し”でした。

株式会社タカアキ 代表取締役 宿南さん

宿南さん
コロナ禍では、日本全体で“ものづくり”が止まっていました。我々もマスクや医療用ガウンの製造を行っていましたが、やはり本職は鞄づくりです。何かできることはないかと模索する中で、ランドセルが選択肢として浮かんできたんです。
たとえ出生率が下がっていても、子どもたちがいる限り、ランドセルは必要とされる。やる価値があると考えましたね。

武田さん
ランドセル業界って、新規で参入される企業さんはあまりないんです。つくり方も形もある程度決まっている中で、違う視点でものづくりができるのはとても貴重だと思います。

宿南さん
鞄づくりのノウハウをそのまま使えなかったので、最初はつくりにくさに苦戦しました。しかも、重い。鞄づくりの目で見てみると収納も物足りない。それなら、もっと軽くて、ファスナーも多くて、収納力もあるほうが、子どもたちには喜ばれるんじゃないか。その考えが、リュッセル®の原点になったんです。
いいね!がたくさん集まるランドセル、リュッセル®
そうしてタカアキがランドセルブランドとして立ち上げたのが、Rikomon。但馬地方の方言で「利口者(りこもん)」を意味します。
そして、Rikomonの看板商品が、ランドセルでありながらリュックのような使い心地を目指したリュッセル®。わくわくするような遊び心が詰まっていながらも、ものづくりへの姿勢に妥協はありません。

リュッセル®の前面と背面

ナイロン糸をふんだんに使うリュッセル®。最軽量モデルは1,000gを切ります。

宿南さん
リュッセル®のカブセ(ふたのこと)は人工皮革を使っていますが、それ以外はほとんどナイロン製です。ただ、一般的なランドセルと形はほぼ変わりません。子どもたちの世界では、みんなと違うものを持っていたら仲間外れにされることもあります。
使い勝手を追求しながらも、見た目はランドセルにする。このこだわりは妥協できませんでした。

武田さん
小学生の子どもたちに理想のランドセルを描いてもらったら、形はみんな一緒。私たちもよく知るランドセルの形でした。それだけランドセルの形は、子どもたちにも“当たり前”のものとして認識されているんですよね。
かわいさに一目ぼれしたと言いましたけど(笑)、リュッセル®はたくさん収納できるし、ちゃんとランドセルの形をしている。知れば知るほど、本当に素敵な商品だと思っています。

宿南さん
運とタイミングと巡り合わせの賜物ですよ(笑)。ランドセル事業をスタートした頃、ちょうど大手ランドセルメーカーの職人の方と契約することができたんです。だからこそ、鞄屋がランドセルをつくれるようになった。
それから我々は豊岡に根差した企業ですから、子どもたちの声も直接聞ける環境にあります。リュッセル®開発の最後の一押しは、工場に見学にきた子どもたちの「これが欲しい!」という声でした。

仕上げは一つひとつ、手作業で行われます。徹底した品質管理で、初期不良率は限りなく低く抑えられています。

武田さん
運とタイミングと巡り合わせ、良い言葉ですね! イトーヨーカ堂でリュッセル®のお取り扱いが始まったのも、まさにそうだったんです。最初はRikomonのお問い合わせ窓口に連絡させていただいて。その折り返しのお電話をいただいたのが、電車の中。「すぐに電話に出ないと駄目だ!」と慌てて電車を降りたのを今でも覚えています。

宿南さん
当時、量販店様との取引は初めてで正直不安もありましたが、武田さんの熱量が決め手でした。取引の話がまだ何も決まっていないうちから、わざわざ豊岡に足を運んでくださって。工場も見ていただいて、その本気度がすごく伝わってきました。いいランドセルを売っていきたいという気持ちがなければ、できることではないですよね。
ランドセルの明日をつむぐ
もっといいランドセルを。
そんな共通の想いから始まったリュッセル®の取り扱いですが、その歩みがどう広がっていくかは、まだこれから。
イトーヨーカ堂での展開は、2025年度から本格的にスタートを切りました。そんな中、リュッセル®を目の前にした武田さんの目は輝いています。


武田さん
リュッセル®は、リュックと同じようにショルダーベルトが調整できるんです。ファスナーも品質の高いものを採用しているので、力が弱くても開けやすくて。体への負担を減らせる設計になっているんですよね。
実際に店舗のスタッフからは、「これなら障がいのあるお子様にもおススメできる」という声もありました。従来のランドセルでは届かなかった価値を届けられたことに、私自身もすごく喜びを感じています。

宿南さん
リュッセル®を売り始めた時、障がいのあるお子様のために専用のランドセルをつくったことがあって、そのノウハウがリュッセル®にも反映されているんです。今でもお声がけいただければ、一人ひとりの特長に合わせてカスタマイズしていますよ。
利益だけを追い求めていても、意味がないと私は思っているんです。使う人の立場に立つのが、本当の意味での“ものづくり”じゃないでしょうか。

武田さん
“ものづくり”への想いが、お客様にも伝わっていると感じます。3月にイトーヨーカドー 木場店(東京都)で行ったマイクロバスでの催事では、青森から見に来てくださったお客様がいらっしゃいました。
『ラン活※を始めた時から絶対リュッセル®がいい! と思っていたけれど、東北では実物を見られる場所がないので、東京のイトーヨーカドーで見られると知って飛んできました』と。
リュッセル®のお取り扱いができたことによって、新しいお客様との接点が生まれ、とてもうれしく思っています。
※小学校の入学を前に、保護者がランドセルを選ぶ活動

移動式ショールーム、Rikomon号。このマイクロバスで、ランドセルの合同展示会などを巡っています。

車両の内部にはリュッセル®がずらりと並んでいます。
最後に、これからのランドセルにかける想いをお二人にお話しいただきました。

宿南さん
ランドセルは、入学という節目を彩る記念品でもあります。だからこそ、これだけ生活の中に根付いて、お年寄りから小さなお子様まで「ランドセルだ!」と反応してくれるんですよね。約140年も続いてきたランドセルの歴史が、“文化”になるまで、大切に守っていきたいと思っています。

武田さん
文化になっていくために、ランドセルはもっと自由でいいと思うんです。
みんなと同じが安心という価値観から、「これが好き」「これが使いやすい」と自分で選べるようにリュッセル®をもっと広めていきたいです。

宿南さん
誰かが喜んでくれて、感動できるもの。リュッセル®に限らず、そういうものをお互いに届けていきたいですよね。

つくり手と届け手、そして使う人。それぞれの想いが重なって生まれたリュッセル®。
その小さな一歩は、ランドセルの明日を、少しずつ変えていくのかもしれません。

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