
いとうあさこの「私のめざめ」。自分のやることで誰かが笑ってくれる喜びにめざめた
人それぞれにある「めざめ」の瞬間。その無限大の可能性を応援する「asupresso」がお送りするコラムシリーズ「私のめざめ」では、毎回スペシャルなゲストに「めざめ」にまつわる思い出や考えを自由に書いて寄せてもらいます。今回筆を執ってくださったのは、お笑いタレントのいとうあさこさんです。
いとうあさこ(お笑いタレント)
1997年にコンビ「ネギねこ調査隊」でデビューし、2003年に解散後はピン芸人として活動を開始。「タッチ」のヒロイン・浅倉南のネタなどで注目を集め、多くのバラエティ番組に出演。2010年には「R-1ぐらんぷり」決勝に進出。現在は、「世界の果てまでイッテQ!」「ヒルナンデス!」「上田と女が吠える夜」「ラジオのあさこ」などでレギュラーを務める。ポジティブで親しみやすいキャラクターが世代を問わず愛されている。
私、「ウワーッ!」の“中毒”なんでしょう。
毎年6月、「お誕生日会」と称して単独ライブ、またの名を“ババアの悪ふざけ”をやらせていただいています(笑)。いつも年明け頃からフワフワと準備を始めて、4月頃から本腰を入れて取り掛かるのがお決まりです。毎年準備期間中に何度か「怪我して中止の理由ができたりしないかなぁ」と現実逃避がちょっと顔を出します。自分で「やりたい」って言ってやっているんですけどね。そう思ってしまうぐらい、いつも必死です。
それなのに、なんで毎年やるのか。たぶんその理由は、大変だったことを忘れてしまうから。そこまでどれだけ大変でもライブが終わり、幕が閉まるときに見える客席のみなさんのお顔や声、その圧を浴びると「ウワーッ!」としか表現しようがない“興奮”を覚えます。それでまた次の年、準備し始めちゃう(笑)。
どんなにしんどい仕事も一生懸命やった結果、ウケたりすると「ウワーッ!笑ってもらった!」とうれしくなって、大変だったことを忘れてまた現場に行って、「そうだ、嫌いなことばっかりだった!」って(笑)。ずっとその繰り返しです。私、「ウワーッ!」の“中毒”、なんでしょうね。なんてしっくりくる言葉。
自分のやることで誰かが笑ってくれる喜びにめざめた。
「人を喜ばせたくて、この仕事をしています」なんて、そんなきれいなことは口が裂けても言えません。人が笑ってくださるとうれしくてアドレナリンが出るわけで。結局は自分のため、ですよね。
その喜びにめざめたのは、遡ること約30年前、ファミリーミュージカル「アルプスの少女ハイジ」に出演したときでした。やらせていただいたのは、ハイジをいじめるロッテンマイヤー先生。
演出家の先生が「いとうさん、好きにやっていいよ」と言うので、「じゃあ」ってことで、自分なりに毎日やり方を変えてハイジをいじめてみたんです。そうしたら、カーテンコールで客席の子どもたちが「ロッテンマイヤー先生のバーカバーカ!」と言いながらも大笑いしていてくれて。そのとき「ウケるのって楽しい!」と興奮している自分に気づいちゃったんですよね。
もともと喜劇がやりたかったのもあったし、“お笑いブーム”という時代のタイミングもあって、この世界に飛び込みました。自分がやることで誰かが笑ってくれる。その喜びは、ロッテンマイヤー先生を演じたときにめざめた感覚と地続きかもしれません。
「本当の自分」で真摯に仕事をすること。
ネタもトークもラジオもコラムも演劇も、私の場合、特に何か違いはなくて。どれもただただ一生懸命やるのみ。もうドキュメンタリーです(笑)。生きてきたものを全部ぶつけるというか。怪我だって失恋だってネタにして、それで笑ってもらえたらこっちのもんですよね(笑)。
だからこそ「嘘はつかない」と決めています。たとえば、テレビでおいしくないものを食べたものときに「おいしい」と言ったとするじゃないですか。もちろん人それぞれ好みはあるので両方の意見があって当然なのですが、もし私が“嘘”をついたとしたら「おいしくない」と言われたとき、何にも言えない。でも本当に「おいしい」と思って言ったなら「そう思ったから」とちゃんと言える。もう信用問題、って感じでしょうか(笑)。
自分が「面白い」「いい」と思うものをお出しして、それを「面白い」とか「観たい」とか決めるのは観ている方。どう思われるかはこちらではどうしようもないので、ひたすら真摯にやるしかない。この仕事はやっぱりちょっと特殊ではあるので、「どんなお仕事でもそうですよね」なんてことは言えませんが、少なくとも私はいつもそう思いながら生きています。
