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江口洋介の「私のめざめ」。 “熱を共有”できたとき、最高の仕事が生まれる

人それぞれにある「めざめ」の瞬間。その無限大の可能性を応援する「asupresso」がお送りするコラムシリーズ「私のめざめ」では、毎回スペシャルなゲストに「めざめ」にまつわる思い出や考えを自由に書いて寄せてもらいます。今回筆を執ってくださったのは、俳優の江口洋介さんです。

江口洋介(俳優)
1968年1月1日生まれ、東京都出身。1986年俳優デビュー以降、テレビドラマ「ひとつ屋根の下」、「救命病棟24時」など数々のドラマ、映画に出演。近年の作品には、映画「ゴールド・ボーイ」、「からかい上手の高木さん」、Amazon Originalドラマ「沈黙の艦隊 シーズン1~東京湾大海戦~」、Netflix「忍びの家 House of Ninjas」、WOWOW「連続ドラマ W 誰かがこの町で」などがあり、2025年2月7日(金)より映画「大きな玉ねぎの下で」が公開中。音楽活動としては、2024年に26年ぶりとなるアルバム「RIDE ON!」をリリースしライブも開催した。

音楽を通して思い出した、研ぎ澄まされた感覚。

長らく俳優の仕事に注力していましたが、2016年から音楽活動を再開しました。

僕が俳優であることは知っていても、音楽をやっていることは知らない方も多いかと思います。実はコロナ禍より少し前から、「そろそろ音楽活動をまた始めよう」と考えていたんです。ステイホーム中にも、昔の曲を再現してYouTubeに上げたり、新しい曲を書いたりしていました。そうしている間に、音楽への欲求がどんどん高まったのを覚えています。

去年の11月に東京と大阪でライブをやった際、お客さんと対面して感じる熱気、それは本当にすごかった。バンドメンバーやスタッフとの間に生まれるグルーヴがそれはもう刺激的で、とてもリアルで。「やっぱり音楽は手放せない」、そう感じたんです。

音楽って、ものすごく原初的で本質的なコミュニケーションだと思います。バンドメンバーとセッションしていると、どんどん感覚が研ぎ澄まされていく……そこに言葉はなくとも、濃厚なやり取りがあるんです。

その研ぎ澄まされた感覚は、芝居にもプラスになります。自分の役やセリフ、そして相手にもっと生々しく芝居で関わっていく、と言いますか。改めて、「感覚を研ぎ澄まして人と関わること」にめざめた、と思います。

熱を共有できたときに「傑作」が生まれるんだと思う。

そういえば10代の頃にも、似たような「めざめ」がありました。当時の撮影はフィルムで撮っていたので何度もテイクを繰り返せなくて、今以上にワンカットの緊張感がすさまじかったんです。そんな緊張感の中、監督や俳優はもちろん、照明さん、音声さん、カメラマンさん、魂のこもった職人たちが一生懸命に作品に向かう姿を見て、感動していました。

あの頃は、「自分はまだろくに芝居もできないのに、どうしてこんなに高揚するんだろう」「どうしてこんなに楽しいんだろう」って、そう思いながら現場に通う日々。俳優として成功したい気持ちよりも先に、現場に対する感動があったんです。撮影後にスタッフルームに呼ばれて「お前、あそこはもっとこうやるんだよ!」とか「俳優なのになんでライブで声枯らしてんだ?」なんて怒られたことは何回もありました。でも、そういう“人間同士のやり取り”みたいなものが気持ちよかったんです。

映画やドラマは、全員で“場”をつくった上で作品に向かっていきます。たとえば、人身売買や小児性愛の問題を扱った映画「闇の子供たち」は、現実にある問題に対してみんなで話し合いながら、世の中に一石を投じるつもりでつくっていった作品です。ドラマ「ひとつ屋根の下」では近い世代の俳優が集まって「自分はこんな作品を見て感動した!」なんて話を、年がら年中話しながら撮っていました。そうやって“熱を共有”できたときに、「傑作」と呼ばれる作品が生まれたのだと思います。

僕たちは、もっと話をしたほうがいい。

気が付けば、ベテランと呼ばれる世代になりました。30年ぐらい前と今では、現場の在り方やコミュニケーションの取り方もずいぶん変わったと感じています。世の中が変わるスピードがどんどん速くなっているので、作品の作り方も時代に合わせて変わるのは当然だと思います。

ただ少なくとも、僕たちはもっと話をしたほうがいいと思うんです。話すということは相手の言葉を聞くことだし、それをしないと相手の思いや考えがわからないから。

昨日聴いた音楽や見た映画のことでもいい。「あのシーンが良くてさ」って言えば「どんなシーン?」って会話が始まる。自分が刺激を受けたもの一つひとつが自分を構成するんだから、相手を知って、自分を知ってもらうためには、そんな雑談もじゅうぶん意味があると思うんです。

そしてそのときに五感から得るものも、もっと大事にしたい。相手の目を見て、声を聞いて、その空気を感じる——それが、“コミュニケーション”のあるべき形。これは音楽や芝居だけじゃなく、どんなものにも共通する大事なことだと思います。

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