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マシンガンズ滝沢秀一の「私のめざめ」。 ごみ清掃員の仕事を通して、開いた穴から見えた世界

人それぞれにある「めざめ」の瞬間。その無限大の可能性を応援する「asupresso」がお送りするコラムシリーズ「私のめざめ」では、毎回スペシャルなゲストに、「めざめ」にまつわる思い出や考えを自由に綴ってもらいます。今回筆を執ってくださったのは、ごみ清掃員としても活躍中のお笑いコンビ・マシンガンズの滝沢秀一さんです。

滝沢秀一(お笑い芸人、ごみ清掃員)
1976年生まれ、東京都出身。1998年に西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成し、M-1グランプリやTHE MANZAIで実績を積む。2012年からはごみ収集会社に就職し、ごみ清掃員としても活動。その経験をもとにSNSや執筆、講演会でごみ問題に関する情報を発信するほか、環境省のサステナビリティ広報大使も務める。著書に『このゴミは収集できません ゴミ清掃員が見たあり得ない光景』(白夜書房)など。

「キリで開けた穴から世界が見える」という師の言葉

僕の物書きの師匠がこういうことを言っていた。

「滝沢さんには言いたいことがたくさんあるから、読む方は焦点が合わなくて苦労を強いられる。滝沢さん、これだけは覚えておいてください。一冊の本でちゃんと伝えられるのは一つだけです。何にフォーカスしますか?キリで穴を開けるように、一つ定めた場所を徹底的に力を込め穴を開けていくのです。キリで穴が開いた時には、その穴から世界が見えます」

僕はこの言葉に痺れた。心当たりがあったからだ。あれも言いたい、これも言いたいとなると受け手は混乱する。一つのことを誠実に伝えることが大事だと師は言う。「その穴から世界が見える」というところがとくに気に入った。

僕が一つ徹底的に追求したことはなんだろう?
僕の半生を振り返ってみると、執着をもって取り組んでいたことは「ごみを減らすこと」だった。なんでかというと、僕は36歳の頃から芸人のほかにごみ清掃員としても働いていたからだ。皆さんより少しだけごみについては詳しいので、ここだけの話を一つする。

お金持ちのごみを真似したら、お金持ちになれるんじゃ?

僕はごみを回収しながら、ある仮説を立てた。「ごみを減らせば、ひょっとしたら金持ちになるのではないか?」——信じなくてもいい。僕がそう感じて、勝手に行動していただけだから。僕は今でもそう信じて、ごみを減らし続けている。

なんでそんなことをしているかというと、職業柄、さまざまな地域でごみを回収する。僕らのような庶民が住む一般的な住宅地もあれば、腰を抜かすような大きな家が並ぶ高級住宅街もある。土地相場が高ければ高いほど、ごみの量が少ない。なんでだろうと考えた時、その理由はすぐに分かった。

ごみ清掃員として働き始めた当初は100円均一ショップが大繁盛で、一般的な住宅からはそれらのごみが大量に出た。茶碗、グラス、おもちゃ、タッパーのような類いのものはまだまだ使える状態でごみとして出された。捨てる側にはそんな感覚ないだろうが、清掃員として客観的に見てみると「お金を出してごみを買っているんだな」と思った。

「じゃあ高級住宅街では100円均一ショップの品物が出ないのか?」と言われれば、これがまた、まったく出ない。考えてみれば、高級住宅地の近くで100円均一ショップはあまり見ない。現在では、一般的な住宅からもあまり出てこなくなってきた。しかしこのような品物が出てこなくなったとしても、一般的な住宅から出るごみの量は変わっていない。

では現在、何のごみが多いのかといえば、洋服のごみが多い。近年、洋服は異常に安い。本当に袖を通したのか疑うほどきれいなアウターがごみ袋に入っていたり、値札が付いたままの洋服が捨てられることがある。高級住宅街で、僕はそんなごみの出し方を見たことがない。ぺらりと一枚、婦人服が可燃ごみの中に入っているのは見たことがあるが、大量に買って大量に捨てるという行為を見たことがない。皮肉にも、ちゃんと気に入った服を値段に関わらず購入しているからそうそう捨てない、もしくは誰かがもらってくれる、ということもあるのだろう。

そして高級住宅街では、不思議に生ごみすら少ない家庭が多い。外食が多いからだという指摘もあるが、僕の知り合いで乾燥型のディスポーザーを販売している友人がいて、ほとんどが高級住宅街からの発注だという。ディスポーザーだけではなく、コンポストなどで生ごみを堆肥に変えていることもあるが、これは高級住宅街のすべてではない。しかし、ごみが少ない人は意識的に減らしている。

ずっとごみのことを考えてきたから「穴」が開いた

僕はその当時、本当にお金がなかったので、逆説的に「お金持ちのごみの出し方を真似したら、金持ちになれるのではないか」と仮説を立てて、真似をした。封筒は住所のところだけ切り取ってシュレッダーにかけて、ほかの部分は古紙回収に出す。天ぷら油を集めて清掃事務所に持っていけば、ディーゼルにリサイクルされるので、凝固剤を買わずにすむ。使用ずみのカイロは、水質汚染を浄化するキューブを作る団体に資源として送る。そうやって可燃ごみの中から資源を取り出した。

そうすると今度は捨てる“出口”だけでなく、ものを買う“入口”の部分が気になるようになってきた。「ムダなものを買わない」モードになると、自分の使う金はどこにいくのかということを考えるようになった。

どんなに安くてもまったく知らない企業に自分のお金が流れるくらいなら、知り合いの店に行った方がいいんじゃないか。そっちの方が自分も楽しいし、相手も喜んでくれる。そもそも洋服ってなんのために着るんだっけ?と考えると、僕は洋服を所持したいわけじゃないんだなと気付いた。それに気付いた時に、レンタル洋服がちょうどいいと思った。スタイリストと相談して、送られてきた洋服を1カ月着て、返却する。周りからの評判もいいし、1カ月経って送り返せば、家に洋服が溜まらない。タンスを圧迫しない快適さを味わえるサービスだ。

そんな風に一つずつ再思考すると、僕の人間性は180度変わった。以前のせかせかした自分から変化して、ていねいな生活をしている自分に気付いた。お金持ちがどうとかで始めたごみを減らす行為は、自分の生活を省みる一番簡単な方法で、明らかに人間性が変わってくる。いわば、想像力を手に入れる行為だと思う。

僕は今では、ごみを捨てる時に「ありがとう」と言って捨てている。捨てたら終わりじゃなく、捨てるまでの過程を大事にできるので必ずそうしている。もし生きている実感があまり湧かないという人がいたら、ごみを減らすことをおすすめしたい。人生が明確に変わる。僕はずっとごみのことばかり考えて、同時にごみに関わるいろんなことも意識し続けてきた。だから、きっともうキリで穴は開いている。お金の使い方に、物への感謝——のぞいた穴から、僕には新しい世界が見えている。

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