コンビニの「当たり前」をつくった ――鈴木 敏文が遺した風景
セブン‐イレブン・ジャパンの創業者であり、セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問 鈴木敏文が2026年5月18日に逝去しました。
――コンビニでおにぎりを買う、コンビニのATMでお金を下ろす。
今ではごく当たり前になった、日常の風景がまだ存在しなかった時代に、新しい発想で社会や暮らしを変えていった人物が鈴木でした。
逝去を悼み、数々の挑戦の中から、私たちの暮らしに新しい文化を生み出した歩みを振り返ります。
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日本国内のセブン‐イレブン1号店となるセブン‐イレブン豊洲店(東京都江東区)がオープンしたのは、1974年のこと。それから50年以上。商品やサービスは変化を続けてきました。
セブン‐イレブン1号店オープン(右から3番目が鈴木)
では、現在の店舗にはどのようなものが加わったのでしょうか? 当時の写真から「今はあるけれど、当時はなかったもの」を考えてみましょう。
セブン-イレブン1号店(1974年)
実は1号店のオープン当初には、今ではおなじみのおにぎり、おでん、ATMなどの商品やサービスが存在していませんでした。こうした現在の「当たり前」は、変化するお客様の生活スタイルやニーズに向き合う中で誕生したものなのです。
鈴木が競争相手として見ていたのは、競合他社ではなく、お客様のニーズの変化。過去の経験や業界の常識にとらわれず、その時々のお客様の生活スタイルやニーズに向き合い、これまでになかった商品やサービスを形にすることで、セブン‐イレブンは店舗が担う役割を広げてきたのです。その代表的な例が、おにぎりとATMです。
お客様にほんとうに「便利な店」と感じていただくために、心を砕いたのは品揃えでした。着目したのは「お客様の日常生活に密着した日本のファストフードとは何か?」ということ。そこで商品として取り入れたのが、日本人になじみ深いおにぎりやおでんでした。しかし、1号店オープン当時、おにぎりは「家庭でつくるもの」と考えられていたのです。
「どの家庭でもつくれるおにぎりを、お客様がわざわざ買ってくれるはずがない」と周囲からは猛反対の声が上がりました。一方、鈴木は誰もが慣れ親しんでいる食べものだからこそ大きな潜在需要があると考え、1976年からおにぎりの商品開発をスタートします。
目指したのは、家庭でつくるもの以上に「おいしい」「手軽」と感じてもらえるおにぎり。味と品質を徹底的に追求し、1978年には食べる直前に自分で海苔を巻く「手巻きおにぎり」を業界で初めて販売開始。これが大ヒットし、おにぎりが日本のコンビニの主力商品として定着していきます。
発売して間もないころの手巻きおにぎり
その後も現在に至るまで、具材や製法などにさまざまな工夫が重ねられ、おにぎりはセブン‐イレブンを代表する商品の一つとなっています。
今では、セブン‐イレブンの店内でおなじみとなった銀行ATM。その発想のきっかけは、すでに店舗で行っていた公共料金の収納サービスでした。暮らしに身近な支払いが店舗でできるようになる中で、「現金もセブン‐イレブンで引き出せたら、さらに便利になるのではないか」と鈴木は考えました。
既存の銀行との共同事業など、さまざまな方策を模索する中でたどり着いたのが自分たちで銀行をつくるという選択。2001年にアイワイバンク銀行(現 セブン銀行)が誕生し、店舗内での銀行ATMサービスがスタートしました。
アイワイバンク銀行のATMサービス開始を記念してテープカットが行われた(一番右が鈴木)
しかし、事業はすぐに軌道に乗ったわけではありません。それでも、鈴木は「お客様のニーズがあるのなら、事業として成り立つ」と確信し、ATMの設置台数を増やしていきました。そして、設置台数が一定の規模に達すると利用件数は着実に増加。開業から3年以内に黒字化を達成することができたのです。やがて、「コンビニでお金を引き出す」という、新たな利用スタイルが定着していきました。
今では見慣れたこの光景も、お客様のニーズを起点に、従来の小売業の枠を越えて挑戦したからこそ生まれた「当たり前」の一つです。
おにぎりを買う。コンビニでATMを使う。かつてはなかった光景が、今では私たちの日常の一部になっています。原点にあったのは、過去の成功や常識にとらわれず、変化を捉え、常に「お客様の立場に立つ」という鈴木の徹底した姿勢でした。
生前、鈴木はこんな言葉を残しています。
「『お客様によりご満足いただくために何ができるのか』を考え、世の中にどんな変化が来ても対応できる企業の体質をつくる。そうすれば、私たちがまだ想像していない変化にも対応し、成長し続けられる企業になるのではないか――」
現在も、鈴木が築いた仕組みや理念は、グループの中に受け継がれています。社員や加盟店オーナー、取引先の方々がそれぞれの現場でお客様と向き合い、変化を捉え、新たな価値を生み出す。その挑戦は、これからも続いていきます。
出典: YouTube
2026年9月18日、セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問 鈴木敏文のお別れの会を執り行いました。当日は、長年ご厚誼を賜ったお取引先の皆様をはじめ、各界の関係者、当社グループの役員・社員など、多くの方々にご参列いただきました。
会場には献花台が設けられ、参列者の皆様が一人ひとり花を手向けながら、鈴木との思い出に静かに思いを馳せていました。展示スペースでは、常に変化を見据え、新たな価値創造に挑み続けたその歩みをご紹介しました
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